2016.03.11
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

こんなとき何て言う!?子どもを伸ばすキメ言葉(1)

京都教育大学付属桃山小学校 樋口 万太郎

「先生、消しゴムがありません。」

Aくんがこのように訴えてきました。みなさんだったらどのように返答しますか?

(1) よし!全員で探そう!

(2) もうちょっと探してごらん!

(3) 落し物箱をみてごらん!

(4) あとでみんなで探そう!

(5) 周りの子に聞いてごらん。

(1)~(5)の中にあるでしょうか。それとも別の言葉でしょうか。

私は次のように答えました。

「先生はサイフがありません・・・(沈黙)。どうしよう?」

冗談のような本当の話です。こう言われたAくんはぽかーんとした表情でした。

 

なぜ「先生はサイフがありません」と言ったのか

本当にサイフがないわけではありません(笑)

このAくんは、

・片付けができない

・自分の机の周りに物が落ちている。

・このようなことが頻繁にある

・まずは自分で探すということができない

・1年生の2学期

というような背景がありました。

私はAくんには、「1度は自分で探す」「自分の机の周りをみる」「片づけをする」という力を身につけてもらいたいために、

このような返答をしました。

沈黙後、Aくんから

「え!?そんなのぼくに言われてもわからないよ。先生、探したの?」

という返答がありました。そこで、私は

「じゃあ先生も今から探してみるから、Aくんも1度探してみてよ。」

とさらに問い返しました。

Aくんは「わかった!」と言い、探し始めました。すぐに発見したようで、「見つかった!」とうれしそうに報告してくれました。

 

教師が「周りを探してみなさい!」「そこに落ちているよ」と指示することは簡単です。

しかし、上の力を見につけてもらいたいためにこのようなやりとりをしました。

選択肢であげた(1)~(5)は何度も言っていました。

実はこのときはAくんの机の周りをちらっとみたとき、消しゴムが落ちているのが見えました。

どんなときもいつも同じ言葉ではなく、

背景を考えながら、その場の状況に応じた発言をする

ことが大切ではないでしょうか。そういう言葉が、キメ言葉であり子どもを伸ばすのだと思います。

 

いつもサイフがなくなったという返答?

「物がなくなった」という状況を1つとっても、

・クラスで物隠しがはやっている

・昨日もものがなくなった

・1学期にも物がなくなった

・片付けがなかなかできない子

など色々な背景があります。

「物隠し?」「今、この子は友達関係ともめているな・・・」などという背景がみえたときには、「先生はサイフがありません」といった発言は絶対しません。すぐに全員で探したりします。

Aくんも机の周りに消しごみが落ちていたとわかってはいたものの、それでも自分で見つけることができなかった場合は、

「あれ?あそこにみえるのは・・・」

とフォローしようと考えていました。

「サイフがなくなった」発言も決してふざけているわけではありません。真剣に考えた上での発言です。

Aくんのその後

Aくんとは「サイフがなくなった」というやりとりを何度も繰り返しました。

そのつど、「先生、またサイフなくしたの!?ドジだなー」と笑顔で言っていました。

またAくんは「今日はサイフなくしてない?」と時々私に言ってきました。

心の中では(そっくりそのままAくんに返すよ)と思っていたのですが、

「心配してくれてありがとう!Aくんは?」と言うようになりました。

Aくんは学年が終わるまでよく物を落としていましたが、

「ぼくが物をなくすと、まんちゃん(私のこと)はサイフをなくすから」と言いながら、片付けや自分で探すということができるようにはなってきました。。

 

もし(1)~(5)の言葉だけでは、ここまで育っていなかったのかもしれません。

まさに子どもを伸ばす「キメ言葉」だったのでしょう。きっと・・・。

 

さて、

周りの子達を味方につけようとすぐに泣く女の子がいます。

さて、みなさんならどのように声をかけますか?    (続く)

樋口 万太郎(ひぐち まんたろう)

京都教育大学附属桃山小学校
みんなが「わかる」「できる」、そして「楽しい」授業を目指し、目の前にいる子に応じた指導を行っています。キーワード「学級経営」「算数」「タブレット端末」。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop